第1回有吉佐和子文学賞 奨励賞 「高校生が愛について考えてみた結果」藤田椛子(神奈川県横浜市)
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和歌山市広報広聴課です。
令和5年12月、和歌山市は、本市出身の偉大な作家、有吉佐和子を顕彰するとともに、文学について学ぶ機会を創出し、本市の文化的風土を醸成するため、塚本治雄基金を活用させていただき、「有吉佐和子文学賞」を創設しました。
第1回の募集概要は下記です。
第1回では、全国のみならず海外からも合わせて、2,077作品ものご応募がありました。
ご応募いただいたみなさま、ありがとうございました。
「第1回 有吉佐和子文学賞」受賞作品12作品が決定し、令和6年6月2日に有吉佐和子記念館で表彰式を行いました。
これからの記事では、「第1回 有吉佐和子文学賞」受賞作品12作品を、ご紹介してまいります。
第1回有吉佐和子文学賞 奨励賞「高校生が愛について考えてみた結果」
「愛」とはいつも流行る曲や映画のテーマであるし、便利だな、と冷めた目で見てしまう。どんなにとんちんかんな歌詞でも、登場人物の行動にも、誰かが「それも愛の形」と言えば皆の疑問は収まる傾向にある。それって少しずるい。対照的に、それが「恋」だった場合、軽んじられる事が多い。例えば私が別れた彼氏を「愛していた」と嘆いたなら皆たくさん慰めてくれるだろう。けど同じ状況で私が「好きだった」と言った際、親身になって慰める声より「次があるよ」という声の方が絶対多い気がするのは、私だけだろうか。
この違いはなんなのか。高校生の私は、恋と愛の違いもよく分からないのである。愛は恋の次のステップとぼんやり認識しているが、じゃあ何をしたら次のステップに進めるのかなどさっぱりである。ちなみに辞書で「愛」を引くと以下のような説明がある。「ひろく、人間や生物への思いやり」。想像以上に抽象的ではないか。反対に恋は愛に比べて具体的である。「一緒に生活できない人や亡くなった人に強くひかれて、切なく思うこと」。愛の定義よりかは納得がいくし想像がつきやすい。そういう点では恋の方がまだ若い私にとって親しみやすいということか。
愛の象徴といえば、シェイクスピアのロミオとジュリエットだろうが、私なりに異論がいくつかある。中学生の頃ロミオとジュリエットを初めて読んだ際、なんて登場人物は浅はかなのだろうかと絶望した記憶がある。パーティーで一目惚れをして、短期間のうちに両親の承諾も得ず結婚をし、周囲の反対の末心中。こんなコントのような愛があってたまるものか。ただの若者の行き過ぎた浅はかな言動にしか捉えられなかった。私の最初の感想は「パリスが可哀想!」だったのを覚えている。婚約者であった愛しのジュリエットの墓参りに行った際、ロミオと鉢合わせ、決闘で殺されてしまうのである。巻き込み事故にも程がある。私はパリスの方がロミオよりジュリエットを想っていたと思う。婚約者が亡くなったにも関わらず、引き篭らず彼女の墓を訪れ花を手向ける行為の方がよっぽど純粋で思いやりを感じる。故私はロミオとジュリエットに愛のかけらも感じない。その代わり彼らは恋をしていたんだと解釈している。お互い一緒に暮らしていない相手に強く惹かれていたし、広辞苑も納得するのではないか。
もしロミオとジュリエットの短期間の情熱と置き換えるのならば、もしかしたら半永久的な相手を思いやる心情を愛と呼ぶのかもしれない。親はどうだ。私は子育てを経験したことがないから親の感情など全く知らないが、親の約20年に渡る継続性や自身の子供を危険なことから守る行為は強い思いやりがないと成し得ない。これは多大なる愛なのではないか。これはペットを飼っている人にもパートナーにも共通する。だとしたら恋が愛に変わる要素は「継続性」と「守る行為」だろう。この継続性というのは半永久的だと考察する。親が20年間の子育てを終えて子供が家を出たらその強い思いやりは消えるのだろうか。否、きっと死ぬ瞬間まで自分の子を愛するのが、本来のあるべき姿であろう。
もしこの持論が本当だとするなら、私たち高校生が誰かを愛したことがないのは納得である。まだ子供である故、私たちは愛を受け取る側であり、まだ人を愛するには若すぎるのである。その代わり私たちは、ロミオとジュリエットのように刺激的な生活を送っている。まだ体験したことのない経験や感情が待っていて、日々新しいことを学んでいくのである。だから高校生には継続性とか、平穏な感情ではなく、短期間の情熱的な恋の方が似合うのだ。
ここまで愛について熟考したからには、誰かを愛してみたいなどかっこよく言ってみたいが、まだ誰かに恋をしていない手前、愛を知るにはまだ100年早い気がしてきた。だとしたら残りの高校生活、私は小説のようなキラキラした恋を、愛を知る前に経験したい。
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