第1回有吉佐和子文学賞 佳作 「継承の地」松村典子(大阪府大阪市)
ご覧いただきありがとうございます。
和歌山市広報広聴課です。
今回も「第1回有吉佐和子文学賞」受賞作品をご紹介させていただきます。
第1回有吉佐和子文学賞 佳作 「継承の地」
「フェアー・イズ・マウント・ワカ?」
(和歌山という山はどこにありますか?)
ビッグ愛の展望ロビーで、遠くの景色を観ていたときに、近づいてきた外国人旅行者に尋ねられた。私は即答できず、
「インターネットで調べてみるので少し待ってください。」
と言いながらも、紀の川や和歌川はあるので和歌山もあるはずだろうと考えていた。
しかし、答えは
「ゼア・イズ・ノー・マウント・ワカ!」
和歌山に和歌山は無いのであった。
山がつく由来は、虎伏山に築いた山城が、和歌浦を望み、和歌山城と呼ばれたからのようだ。和歌山城に行くのならバス停まで案内すると申し出てみた。停留所までの道を歩きながら会話が弾んだのは、その旅行者はトルコ人で、明日は串本のトルコ記念館に行くと言うのだ。エルトゥールル号を助けてくれた和歌山の紀伊大島の人に感謝をしていて、長年訪れてみたい場所だったようだ。
「テシェキュレデリム」
トルコ語で「ありがとう」の挨拶を思い出した。
私は、世界を旅することが好きで、トルコを訪れたときにも深い人情に触れた。
首都アンカラで、私がどのバスに乗ったらいいかわからなくて声を掛けた人が、バス停まで連れて行ってくれて、運転手さんに私の降りる場所を伝えてくれた。バスは進んでいき、運転手さんは私が降りる停留所で教えてくれた。そして、お金は要りません、あなたを乗せた人が払ってくれているからと微笑んだ。
時を超えて、私は旅人をバスに乗せて運転手さんに頼み、「テシェキュレデリム」あのときのお返しをすることができた。
トルコはエルトゥールル号の救助のお礼にと、イラン・イラク戦争のときに停戦時間が迫る中、日本人をトルコの飛行機で脱出させてくれた。紀伊大島の人の善意は、125年後に国を動かす恩返しになった。感謝の気持ちは100年以上も続くことを和歌山とトルコの交流から学ぶことができた。
反対に、憎しみの気持ちも続くのだから、今、戦争をしている人は未来の人のためにやめて欲しいと思う。
人の気持ちは、次の世代に無形の継承として増幅していくのかも知れない。
和歌山には和歌山がないという、何気ない会話がきっかけからでも、良い連鎖が始まると嬉しい。もしかしたら次は、私の孫が助けられる未来があるかも知れない。
私に世界を動かすことはできなくても、一人の人の心を動かすことは出来る。挨拶をしたり、困っている人がいたらお手伝いをしてみるだけで小さな世界平和が継承されたら素敵なことではないだろうか。
和歌山はそんな継承の地なのだ。
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