第1回有吉佐和子文学賞 奨励賞 「酒という謎」芳賀永都(宮城県仙台市)
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和歌山市広報広聴課です。
今回も「第1回有吉佐和子文学賞」受賞作品をご紹介させていただきます。
第1回有吉佐和子文学賞 奨励賞「酒という謎」
私は酒が好きだ。
はじめに言っておこう。私は未成年であるが、誓って一滴も飲酒したことはない。そのことをご理解頂いた上で、私の話を聞いて頂きたい。
周りの友達はあまり疑問に思っていないようだが、酒という飲み物は謎が多い。
まず何味なんだかよく分からない。周りの大人達は苦いというが、その割には実にうまそうに飲むのである。
調べてみると酒の中でもとりわけ有名なビールというやつは、水と麦芽とホップという味や香り付けの植物から作られているそうだ。
つまるところビールは草と水だ。そりゃ苦いわけである。
しかし大人たちはその草と水を顔を赤らめ、呂律が回らなくなり、時には気分を害するまで大量に飲むのである。これはもはや異常行動と呼んでも差し支えないのではないだろうか。
それに飲んだときのあの大人の変貌っぷりには驚かされる。いつもは静かな私の叔母でさえ飲み始めた途端急に饒舌になるのだ。親戚の酒の席で何度あの周りのテンションについていけない感を味わったか分からない。本当にあの飲み物は合法なのかも疑わしい。
加えて種類も多すぎる。ビールなんて結局全部苦いらしいのになぜあんなに種類があるのか。大人はそんなに苦みを欲しているのか。
私がよく飲むコーラはスーパーには大体一種類しかおいていないのに対し、酒類は棚いっぱいに所狭しと並べられ、もはや明らかな不平等を隠そうともしない。こんなことが許されるのだろうか。いや、許されるはずがない。
しかもこの酒というやつはビールだけじゃ飽き足らず、他にも大量の種類があるのだ。ワイン、ウイスキー、ジン、日本酒など数え出したらキリがない。
かくいう私も最近ではそんなお酒の味が気になってしょうがなくなってきている。なにせ想像することもできない味なのだ。その価値は私の中でドラゴンや魔法と同じくらいのファンタジー性を帯びている。
そんな話を両親にすると彼らは
「一口飲んでみるか?」
などと未成年飲酒を助長してくる。
違う。私の言いたいことはそういうことではない。
私はやるならとことん知りたいのだ。それこそ顔を赤らめ、気分を害し、話に聞く二日酔いになろうとも自分の中で納得がいくまで飲んでみたいのだ。たった一口飲んだだけでいったい何を分かった気になれというのだ。
そう両親に熱弁をふるってみるものの、遠い昔に過ぎ去った時間だからかいまいちピンときていないようである。
仕方がないので私は一人で酒が向こうから近づいて来るのを待とうと思う。
二十歳まであと三年半。……長いな。
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