第1回有吉佐和子文学賞 奨励賞 「インスタントコーヒーの粉」辻󠄀拓真(和歌山県和歌山市)
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和歌山市広報広聴課です。
今回も「第1回有吉佐和子文学賞」受賞作品をご紹介させていただきます。
第1回有吉佐和子文学賞 奨励賞 「インスタントコーヒーの粉」
2年生も3学期に入り、部活や勉強の忙しさに拍車がかかってきたという頃、私は溜まりに溜まった宿題たちを机に広げ、頭を抱えていた。もう何度味わったかも分からない後悔に、思わずため息が出る。しかし、今まで散々サボってきたのに、このまま2年生も終えてしまえば、卒業後の進路が心配で仕方ない。そこで私は、今提出できる分の宿題だけでも、必ずやり切ると決意したのだった。
作戦決行1日目。
駆け足で学校から帰宅した私は、夕飯などを終え、スマートフォンやゲーム機の誘惑をなんとか振り払い、机に向かった。時刻は午後9時、ここまではよかった。しかし、数学のワークを開いたその瞬間、強烈な睡魔に襲われ、あえなく撃沈。1ページも進まないまま、机に突っ伏して朝まで爆睡してしまうのだった。
作戦決行2日目、時刻は昨日と同じ午後9時。
今日は昨日のようにはいかないぞ、睡魔よ。途中で眠ってしまわないよう、今日は秘策を考えてきたのだ。覚醒作用のあるカフェインの力を借りて夜更かしするという作戦である。調べたところ、身近なものではコーヒーに多く含まれているらしいので、家にあるインスタントコーヒーを使うことにした。
特に隠す事ではないが、普段コーヒーは飲まない私がいきなりコーヒーを飲んでいるところを両親に見られると、格好つけているように思われそうで何だか恥ずかしいので、両親にはバレないようこっそりコーヒーの粉を部屋に持ち込んだ。
そこで私はある事に気がつく。
お湯を忘れてしまった。
しかし、今からキッチンに戻ってお湯を沸かすとなると、きっと両親に何をしているのか怪しまれるだろう。
そこで私は何を考えたのか、なんとコーヒーの粉を直飲みするという奇行に走ったのだった。
口に入れた瞬間、ザラザラとした不快感と苦味が口内を駆け巡る。ミルクコーヒーすら好んで飲まない私にとっては、お世辞にも美味しいとは言えない味だった。
しかし数分後、少し前からうっすらと感じていた眠気が、驚くほど綺麗になくなっていたのだ。私は作戦の成功を喜びながら、軽い動きで宿題に取り組むのだった。
翌朝。
やってしまった。
自分が深夜まで起きていられるのが嬉しくて、つい徹夜してしまったのだ。
宿題こそ進んだが、あれからまたちびちびとコーヒーの粉を舐めていたせいか、なんだか気だるい感じがして気持ち悪いし、何より眠い。珍しく自分で開けたカーテンの奥には曇り空が広がっており、沈んでいた気分に追い打ちをかけてくる。いつもより少し早く身支度を済ませ、しばらくコーヒーの粉は見たくない、と心の中で嘆きながら、私はとぼとぼと通学路を歩いていくのだった。
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